不動産屋や不動産オーナーである賃貸人にとって、居住者やテナントなど、借用者とのトラブルは0とは言い切れません。
近隣住民からのクレームに対応したり、家賃滞納の件で頭を抱えたり・・・どのような人が物件を借りているかによって賃貸人が抱える問題も様々です。
困った居住者に頭を抱える賃貸人がいても、賃貸契約に関する法律はオーナー側にとって不利であることが多いのが現状です。
過去に賃貸人である家賃保証会社が追い出し条項を適用して借主を追いだすような行為は違法であると、最高裁の判決が下された裁判があります。
「法的手続きを経ず、一方的に借主に退去を迫るものだ」という弁護側の主張が通り、家賃滞納や借主と連絡が取れないなどにより、オーナーや会社側が借主の同意を得ずに家財道具を搬出できるとした「追い出し条項」に関して最高裁は違法とする判決を下したのです。
問題がある居住者や賃借人に対して賃貸人が対処するためには、明け渡し請求を行なう方法が有効ですが、穏便に済ませたいのが賃貸側の本音ではないでしょうか。
今回は明け渡し請求とは何なのか、訴訟を行なう際の条件や注意点、詳しい手順などについて解説します。
借り主が家賃を一定期間滞納するなどした場合は物件を明け渡したとみなし家財道具を処分できるとした家賃保証会社の契約条項の有効性が争われた訴訟で、最高裁第1小法廷(堺徹裁判長)は12日、規定は違法とする初判断を示した。
賃貸住宅契約の「追い出し条項」は違法 最高裁が初判断(2022/12/12掲載産経新聞)
Contents
明け渡し請求とは?
明け渡し請求とは、マンションやアパートなどの建物を借りている人を退去させるための請求を指します。
居住者が家賃を滞納しているときなどに用いられるのが明け渡し請求であり、法律では不動産の所有権を持っていれば請求できると定められています。
この明け渡し請求には2つの種類があるため、それぞれの特徴を以下で確認しておきましょう。
請求の種類 | 請求内容 |
---|---|
交渉による明け渡し請求 | 居住者との交渉や話し合いによって明け渡しを請求すること |
法律に基づいた明け渡し請求 | 法律によって強制的に退去させること |
交渉による明け渡し請求は、その場の話し合いだけでは強制力に欠け、居住者を確実に退去させることができるとは限りません。
一方、法律に基づいた明け渡し請求は強制的に居住者を退去させることができるものの、明け渡し訴訟を起こす必要が出てきます。
明け渡し訴訟には多くの費用と時間を必要とします。
実際には、居住者と交渉したものの立ち退きが実行されないときに、明け渡し訴訟を起こすケースが多くなっています。
明け渡し請求の訴訟を行なう際の条件
明け渡し請求の訴訟は、裁判になります。
悪質な居住者で困っている、なかなか建物から立ち退きしてもらえないといった場合でも、簡単に進められるものではないため条件を確認しておくことが重要です。
明け渡し請求で訴訟を行なうためには、次の条件を満たしている必要があります。
居住者が3ヵ月以上家賃を滞納している
家賃が未払いとなっているという点ではなく、賃貸人と借家人との間の信頼関係について重視していくことから、3ヵ月以上家賃が滞納している状態を明け渡し請求の訴訟が可能な条件としています。
無断で第三者への譲渡・貸与がされている
不動産の所有者の承諾を得ずに無断で第三者へ不動産の譲渡や貸与がされた場合も、明け渡し請求を行なうことができます。
不動産の又貸しは無断転貸、賃借権を第三者に譲渡することを賃借権の無断譲渡といいます。
どちらも法律で禁止されている行為となるため、無断での譲渡や貸与がなされている場合は不動産の所有者は賃貸契約を解除することが可能です。
権利を持たない第三者による不法占拠
不動産の権利を持たない第三者に住居や店舗などを不法占拠されている場合も明け渡し請求ができます。
不法占拠とは、法律で認められた権利を持たない人が不動産を占有しているという状態です。
このように、権利を持たない第三者による不法占拠についても明け渡し請求を行なって退去してもらうことができます。
強制執行は必要なものが揃っていないとできない
明け渡し請求の訴訟により居住者にすぐに退去してもらえると思われがちですが、以下のものを用意して手続きを行なわなければなりません。
必要書類 | 内容 |
---|---|
債務名義 | 賃貸人の明け渡し請求権の存在を証明する文書 |
執行文 | 執行文付与機関が、債務名義の執行力の範囲を証明するため債務名義の正本の最後に追記した文言 |
送達証明書 | 債務名義が相手方に送達されたことを証明する、裁判所の書面。 |
明け渡し請求を行なう場合の注意点
明け渡し請求は、賃貸人にとって労力や時間などの大きな負担が伴います。
そこで、注意点を理解して、無事解決する方向に進められるように明け渡し請求を行なうようにしましょう。
基本は訴訟しかない
基本は訴訟する流れとなります。
法律に基づいて、裁判所も交えて明け渡し請求を行なうことで、より確実に居住者の退去を促すことができます。
訴訟には労力と費用、居住者との人間関係などのリスクが発生します。
勝手に住居に入ってはいけない
居住者が家賃を滞納しているとしても、勝手に住居に入ってはいけません。
無断で部屋に入った場合、賃貸人であっても住居侵入罪に問われる可能性があります。
居住者と連絡がつかない間、部屋がどうなっているのか様子を見に室内に立ち入るなどの行為は法に触れることとなるため、注意しましょう。
相手(居住者)が破産する可能性がある
家賃滞納で明け渡し請求訴訟へと進めるとき、居住者はお金に困っている可能性があります。
家賃をこれ以上支払うことができないと精神的に追い詰められ、自己破産してしまう恐れもあるため注意が必要です。
居住者が自己破産すると、賃貸人としては取り立てることが不可能となります。
家賃滞納が起きている原因も踏まえた上で、明け渡し請求についても慎重に考えることが大事です。
未納金の回収より明け渡しで次の家主を探すことが最適
賃貸人が居住者に対して明け渡し請求を行なうとき、滞納している家賃を支払ってもらうのではなく、新しい家主を探すという方法が最適です。
家賃を滞納しているということは、賃借人は家賃を支払えない状況にあるということです。
そのような状態のなかで居住者に対して滞納している家賃を支払うよう伝えても、支払ってもらえる可能性は低いでしょう。
訴訟に時間を費やしている間にも、賃貸物件は誰にも借りられず無駄に持て余す状態となるため、明け渡し請求を行ない、次の家主を探す方が現実的であり効率的といえます。
家賃滞納が起きた場合の対処法
賃貸人が居住者に対して明け渡し請求を行なうという場面は、主に家賃滞納が発生しているときに多いです。
居住者が家賃を滞納している状態が続いている場合は、いきなり明け渡し請求の訴訟へと進むのではなく、まずは次のような対処をとりましょう。
居住者と連絡がつくケース
家賃を滞納している居住者と連絡がつく場合は、弁護士を交えて残っている物品を処分する合意書を用意します。
明け渡し請求を行なう前に、賃借人合意のもと物品を処分していくこととなります。
家賃滞納が発生している、居住者の連絡先を知っていて連絡をとることができるときは、物品を処分することに合意してもらうことから始めましょう。
このときに法律に詳しい弁護士のサポートがあると、居住者と揉めずに済みます。
居住者と連絡がつかないケース
連絡がつかない場合は話し合いもできないため、連帯保証人に連絡を取り、滞納分の家賃を請求することになります。
しかし保証人とも連絡が取れない、または保証人が家賃を支払ったとしても継続的な支払ができないのであれば明け渡し請求の訴訟へと移ることになります。
明け渡し請求を行なう際の正しい手順について
居住者の家賃滞納について、明け渡し請求を行なう流れを解説します。
半年ほどかかることになる明け渡し請求の訴訟、流れを確認しておきましょう。
- 内容証明郵便による滞納賃料の督促、未払いの場合の解除通知
- 約1ヵ月後、訴訟の提起
- 約1ヵ月後、第一回口頭弁論期日
- 10前後経ってから勝訴判決
- 勝訴判決から2週間後、居住者に対する判決の送達
- 判決の確定
- 強制執行の申し立て
- 執行官との打ち合わせ
- 催告期日
- 1ヵ月以内で強制執行断行日
明け渡し請求訴訟に必要な書類や費用
明け渡し請求訴訟にはどのような書類が必要となるのか、またどの程度の費用が発生するのか見ていきましょう。
明け渡し請求訴訟の際に必要な書類
明け渡し請求訴訟を行なう際、訴状の他に以下のものが必要となります。
- 不動産登記謄本
- 固定資産評価額証明書
- 予納郵便切手
- 収入印紙
- 証拠となる書類
- 法人の場合、代表者事項証明書
明け渡し請求訴訟にかかる費用
明け渡し請求訴訟では、次のような場合において費用が発生します。
- 物品の回収作業にかかる作業員やトラック代などの費用
- 申し立ての際、執行官に預ける予納金(基本額は65,000円)
予納金から明け渡しにかかった費用を差し引き、余りがある場合手元にお金が戻ってきます。
明け渡し請求や強制執行においては自己負担となる部分が多いため、費用面を考えた上で検討しましょう。
明け渡し請求は法律のプロである弁護士に相談しよう
明け渡し請求は賃貸人自身で準備を整えて進めていくことができるものの、法律が関係してくるとやはりプロの存在が心強いです。
そこで、明け渡し請求に関してお悩みの場合は、弁護士に相談する方法がおすすめです。
明け渡し請求に関して弁護士に相談すると、次のようなメリットが得られます。
- 裁判を行なわなくても解決できる場合がある
- 誤った行為により訴えられることがない
- 家賃滞納を抑止することができる
- 家賃の時効の成立を中断させることができる
必要書類の送達を弁護士に任せることができ、うっかり居住者の部屋に入ったり物品を勝手に運び出すなどの誤った行為を防ぐことができます。
さらに、弁護士が加わることで居住者に家賃を優先的に支払ってもらえる点が期待でき、時効成立を防ぐこともできます。
明け渡し請求に詳しい弁護士の力を借りて、できるだけスムーズに対処することが望ましいです。
明け渡し請求の流れや注意点を押さえて居住者と正当に向き合おう
明け渡し請求は、賃貸人にとって労力と費用がかかることです。
弁護士という専門家のサポートを受けながら進めていくことで、迅速かつ確実に明け渡し請求を行なうことができます。
自身で明け渡し請求の注意点や手順を理解しつつ、お困りの場合は弁護士にご相談ください。
賃貸物件の明け渡し請求に関するトラブルのことなら大阪の弁護士「西横堀総合法律事務所」へご相談を
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